高級M&A
語り合いの結果、顧客が企業からの語りに共感すればその語りは受容され、そのコンテクストが顧客のコンテクストと違和感があるときには拒絶される。
拒絶に対し、企業は新たな筋やコンテクストの調整や変更、つまり「語り替え」を行なっていく。
このようにインタラクションとは、企業と顧客が、ある「場」のなかで語り合いと調整を行なうことを意味している。
近年、通産大臣賞、ニュービジネス協議会会長賞を受賞した自然派化粧品チェーンのハウス・オブ・ローゼは、自らを「自然と香りのなかで楽しく肌を磨く事業」と規定し、顧客とのインターフェイスにあたる売場にすべての価値を置き、徹底した顧客との語り合いを実践した。
具体的には、店頭での顧客との対話と会話を最重視し、そこから新しい商品アイデアを探り、店の思いを伝え、新しい共創価値の発見と実現を推進する。
同社の川原社長にとって、「社長室は店頭」であり、「自分をユーザーの最先端に置く」ゆえに自らの肩書きは「販売員」となり、店を「お客様と売る側とが商品を接点に触れ合う場」と規定することになる。
同社が市場調査をいっさい行なわず、広告もまったく打たないで多くの自社開発のヒット商品を出し続けられたのは、まさにインターフェイスと語り合い重視の結果である。
インターフェイスと語り合いを戦略的に工夫しながら、インタラクションの成果をあげた例は、ソニーのCDプレーヤーにもみることができる。
ボストン・コンサルティング・グループの報告によれば、ソニーがcDプレーヤーというまだ世に出ない製品をつくるにあたり、いかなるデザイン、機能、販売価格にすべきか、開発陣は頭を悩ませたという。
そこで同社は、三一か月間に一五種類のCDプレーヤーを次々に発売し、直接、市場とのインターフェイスで反応をみるという方法をとった。
具体的には次のやり方である。
最初にA、B、C、Dというように五機種から六機種を同時に発売した。
そして、そのなかでCがよく売れたとすれば、なぜCがよく売れたのかを調べるために、ユーザーから直に、どの点が気に入ってどの点が不満かを聞いて、その意見に基づいて次にCをベースにした○○という商品を次々に発売した。
こうした作業を繰り返すことによって、通常よりはるかに短期間で市場のスイート・スポットの発見、すなわち売れ筋商品の絞り込みに成功したのである。
このように、人為的にインターフェイスと語り合いを操作することによって新しい価値をインタラクティブに発見する方法は、今日的インタラクティブ・スタイルといえる。
語り合いは、対話と会話が具体的な手段となるが、第6章で述べたように、対話は、たとえば対話集会、対話法などの言葉に示されるように、目的志向的、機能的、ルール準則的である。
それに対して会話は、日常会話などの語に示されるように、特定の目的もなく、雑談的であり、それゆえに非機能的、ルールレスである。
営業マンが商品説明をし、それに対して顧客から質問を受け、さらにそれに答えていくという形は、やや目的志向型、機能型の対話である。
それに対し、友人や家族などととりとめのない雑談をしている場合は、同じ双方向でも、会話といえる。
同じ語り合いでも、偶発的発見のためには会話が適しており、より目的追求のためのアイデア収集なら対話のほうがベターとなろう。
当初のストーリーとしてのマーケティング・オファーは、しばしば未完成な、筋書の変わり得るストーリーである。
それゆえに企業は、市場でのインタラクションを通じてフィクションをノンフィクションたるストーリーに仕立て上げながら、共創価値を循環的に高めていく形をとる。
企業がこのような循環的なプロセスを競争優位的に遂行しょうとする場合、このプロセスのスピードは生命線になる。
スピードの上昇は、一般的に顧客ニーズを高め、企業効率(生産性)を向上させる。
いわゆるスピードの経済性である。
企業のインタラクション・サイクルは、大きくみて、市場や顧客にストーリーを投げかける側面と、インターフェイスでの偶発的発見を次のストーリーに取り込む側面とに分けることができる。
そのうち、今日は、後者の取り込みスピード、つまりいかに速く市場の反応結果をフィードバックするかがインタラクション・スピードの決め手となる。
フィードバックにおけるスピードのうち、市場や顧客が企業の提供ストーリーを受容した場合には、売り損じを少なくするように迅速に対応することが課題になる。
この場合には、Tのカンパン方式にみられるように、生産、物流、販売の一貫体制やシステム革新が鍵となる。
たとえば、イタリアのベネトンは、ファッション・サイクルが速くニーズの読みにくいアパレル業界で、後染め方式という生産方法や受発注システムの革新で売れ筋の補充スピードを上げ、大きな成功をおさめた。
あるいは、セブンくイレブンやIのように、製販同盟化やチーム・マーチャンダイジングによって売場から生産までのクイック・レスポンス化と機会損失回避をはかっている例もある。
一方、市場が企業の提供ストーリーを受容しなかった場合、「語り替え」のスピードが重要になる。
語り替えは、商品そのものの変更、プロモーション方法の変更、あるいはその組み合わせの変更など、さまざまな形をとる。
このうち、商品中心の語り替えは、モデルチェンジとして代表的に示される。
日本企業のモデルチェンジのスピードと種類の多さは世界的に突出しており、自動車、オートバイ、家電、エレクトロニクス機器などで、これまで日本企業の競争力の源泉の1つとなってきた。
このモデルチェンジのスピードは組織にリズムと勢いをつけ、偶発的な価値やニーズを漸進的に取り込み、需要と競争優位をつくり出してきた。
今日、資源浪費との関連でモデルチェンジのスピードと期間は、低下、延長の傾向にあるが、新しい発想と情報技術のもと、低コストで実現し得るスピーディなモデルチェンジの革新が今必要と思われる。
また、すでに指摘したように、市場ターゲットやコミュニケーション上の違いが、今後の市場傾向からみてさらに常態化するとすれば、パジェロやポケベルでみられたようにプロモーション上の語り替えのスピードアップも新たな競争優位と価値創造の基礎となろう(スピードのもつ経済性については改めて第9章で議論することになる)。
企業と顧客とのインタラクションによって共創価値創造のソリューションが生まれれば、顧客満足は高まり、信頼はいっそう深くなる。
このとき、顧客は「伝導師」としてその企業を宣伝し、新しい顧客を企業に紹介してくれる。
つまり、「客が客を呼ぶ」形で加速的な顧客創造が可能になる。
企業が現在顧客の徹底的満足を追求することは、「平均的ビジネスの六五%は現在顧客から」「新規顧客獲得には現在顧客と同じ売上げに五倍の経費」「顧客ロイヤリティを五%上げれば、利益は二五~八五%増加」など、アフターマーケティング論が主張するように企業にとってのメリットは大きい。
間違っても、自社の悪口を言いふらし他人の購買意欲をそいでしまう「テロリスト」をつくつてはならず、自社の良さを吹聴してくれる「伝導師」づくりを心掛けなければならない。
売り手たる企業と買い手たる顧客とのインタラクションによって共創価値がつくられると、双方は底上げされた価値状態となり、再び、双方のインタラクションのシーソーゲームが行なわれることになる。
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