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欧米諸国では、科学技術水準の向上や経済の国際競争力の向上が直接的な目標として掲げられ、教育の卓越性(輿庄回号が追求されているのに対して、日本では、個性の開花や文化的な豊かさの問題としてとらえられ、卓越性の全体的な底上げよりも、差異化・多様化が重視されている。
第三に、しかし、とくに英米と日本では、その目標を達成するために、教育に市場原理・競争原理を導入し、教育の市場化・私事化を促進する動きが強まっている。
そして、その動向のなかで、教育の公共性の問題があらためて課題となっている。
第四に、欧米でも日本でも、教育改革は、一方で社会改革の中核をなすもの、教育問題・社会問題解決の手段として位置付けられ、もう一方で、その時々の政府の正当性を確保する手段となっている。
改革すれば良くなるという幻想を生みだし、その幻想に支えられて改革が進められている。
以下では、こうした点を念頭に置きつつ、英米を中心に諸外国の教育改革動向と比較することにより、日本の改革動向の特徴を検討することにしよう。
80年代以降、日本の教育に対する関心が世界的に高まってきた。
たんに関心が高まったというだけでなく、そこには注目すべき新しい傾向がある。
その新しい傾向とは、欧米先進国でも日本の教育に対する関心がこれまでになく高まってきたこと、しかも、それが興味本位の趣味的なものではなくて、モデル追求的な関心へと変化してきたことである。
60年代末から70年代初めにかけて、OECD教育調査団は世界各国の教育事情を視察・調査し、その成果をカントリー・レポートとしてまとめたが、その日本編『日本の教育政策』は、日本の教育は激列な入試競争と学歴偏重によって著しく苦しめられているとして、これを否定的に論じた。
しかし、それから10年後の80年代になると、日本の教育に対する諸外国の関心は、むしろその成功の秘密へとシフトしてきた。
その主な理由は二つある。
一つは、いうまでもなく、日本の経済的成功である。
第二次大戦による疲弊にもかかわらず、未曾有の経済成長を達成し、わずか30年でアメリカに並ぶ経済大国になったことは、世界中の目を引きつけるに十分であった。
かくして80年代以降、日本の経済成長を支えたものへの関心が高まり、とくに高度な技術水準と生産的な企業組織かその中核的な特徴として注目されるようになったのは周知のところである。
第二に、技術水準にしても企業組織にしても、それを支える適切な人材があってはじめて有効に機能するものであるが、それは、日本の学校教育が人材養成という点で優れた成果をあげているからだと考えられるようになった。
この点で日本の学校の評価を高めることになったのは、数学と理科の国際学力比較調査の結果である。
国際教育到達度評価学会(The International Association for the Evaluation of Educational Achievement 略称IEA)は、1964年に日本を含む十一ヶ国で第一回目の数学教育調査を実施し、さらに70~71年には二十二ヶ国で理科や読解についての第一回調査、80~83年には二十三ヶ国で二回目の数学と理科調査を行った。
そんな中、高校生の学力が調査対象国中で最高水準にあることが明らかになり、かくして戦後日本の高度経済成長、それを支えた高い技術力と良質の労働力、その技術力や労働力の基礎を作っている学校という因果連関が実証的根拠をもつものとされ、国際数学教育調査結果がモデル探しの対象として注目されるようになった。
この日本の教育がモデル探しの対象になるという事態は、皮肉ではあるが実に興味深いことである。
というのも、教育先進国を自認してきたアメリカとイギリス、日本の教育がこれまで絶えずモデル探しの対象としてきたアメリカとイギリスにおいて、企業経営や産業政策といった経済面だけでなく、教育面でも日本に学ぶという傾向か見られるようになったわけだが、その一方で、そのような日本の教育が、日本国内では批判の対象とされるようになり、重大な改革が進行しているからである。
しかもその改革は、初等・中等教育に関するかぎり、一見したところ英米とはまったく逆の方向を向いでいる。
イギリスでもアメリカでも、効率的で競争的なシステムを導入することにより、学力水準を高め、教育の卓越性を達成することが目指されている。
それに対して日本では、システムを弾力化し、競争的性格を抑制し、個性の伸長と自由の拡大をはかることが主要な課題とされている。
このように日本と英米の教育改革のベクトルか逆向きだということは、それぞれの国が他国にモデルを求め、その特徴に学ぼうとしているのであるから、ある意味で当然のことである。
しかし、こうした傾向把握のしかたは、一面的でおおざっぱすぎることも確かである。
そこで、これら三ヶ国における戦後の教育改革の動向を、前述の四つの中軸原則を踏まえて検討してみよう。
アメリカでは、1957年、スプートニク・ショックが契機となって、教育の効率的・能力主義的再編を目指した改革が進められた。
国家防衛教育法が制定され、科学研究に巨額の連邦資金が投入されるようになり、科学技術教育や職業教育の充実がはかられた。
また、数学や理科を中心に、学問研究の成果を踏まえた教育内容の再編が進められた。
ところが、1960年代になると、人種差別撤廃を求める公民権運動が盛んになるなかで、公民権法や経済機会法が制定され、平等という価値が教育政策の前而に出るようになった。
貧困層やマイノリティ(黒人、ヒスパニック、アジア系など)の教育環境を改善するためにヘッドスタート計画が進められ、その進学機会を拡大するために奨学金が拡充され、大学進学機会を拡充するためにマイノリティへの入学定員割当制が導入された。
さらに、60年代後半以降、学校における人種統合を促進するために、強制バス通学制(バス通学によって白人居住区にある学校にマイノリティの子どもを通学させ、黒人居住区にある学校に白人の子どもを通学させる制度)が導入された。
しかし、強制バス通学は、学校内でのトラブルの頻発を招き、また、それをきらった白人中産階級は子どもを私立学校に通わせたり、郊外に転出するなど、いわゆる「ホワイトフライト」(白人の逃げ出し)を招いた。
そうしたなかで、強制バス通学のような強制的な人種統合策ではなくて、自発的な人種統合策としてマグネットスクールの導入を進める地域も多くなった。
マグネットスクールとは、マイノリティの多い居住区に、カリキュラムや教育施設を充実し、あるいは、高校で大学の授業を受けることのできるAPP(Advanced Placement Program)を導入するなど、特別に魅力のある高校をつくり、白人子弟の自発的な入学を促進することにより、人種統合を進めようとしたものである。
しかし、もう一方で60年代後半以降、学習の遅れや教室秩序の混乱が目立つようになり、とくにハイスクールでは暴力学園化という事態が顕著になった。
その背景には、強制バス通学のような人種統合策があったことも事実だが、それ以上に、都市化の進行やベトナム戦争の拡大、人種差別撤廃運動の社会的ひろまりなど、社会全体に大きな変化かあったことが重要である。
また教育界では、「カリキュラムの現代化」によって進められた教育内容の高度化、大学進学率の上昇にともなって問題化するようになった。

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